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この時代を生きていく上で,よく分からないことを,少しでも理解できるように努めていきたい.時間をかけて,このブログを書いている理由は愛する人達が気づき,生き延びてくれるように願うからである.

新型コロナにアビガンは効くかもしれないでしょ.

新型コロナ「アビガンは効かないよ」問題について(文春オンライン)
では,”明白になった「アビガンはコロナに効かない」という事実”,とか書いてあります.本当なのでしょうか?
引用されている毎日新聞の報道で”本丸の日本医師会有識者会議が「アビガンがコロナウイルスに有効というエビデンスはない」と明言した”と言っています.
本当なのでしょうか? 引用された毎日新聞の説明には”拙速に特例的な承認を行うべきではないと提言した”とありますが,”「アビガンがコロナウイルスに有効というエビデンスはない」と明言した”のでしょうか? 一歩譲って,「アビガンがコロナウイルスに有効というエビデンスはない」ということは,「アビガンはコロナウイルスに効かない」ということにはなりませんね.

日経バイオテクによると,日本医師会COVID-19有識者会議(座長:自治医科大学の永井良三学長)の見解について,以下のように掲載されている.
「エビデンスが十分でない候補薬、特に既薬については拙速に特例的な承認を行うことなく、十分な科学的エビデンスが得られるまで、臨床試験や適用外使用の枠組みで安全性に留意した投与を継続すべき」とくぎを刺している。緊急提言は、具体的な薬剤名には言及していないものの、富士フイルム富山化学の「アビガン」(ファビピラビル)などの薬剤を念頭に置いたものと思われる。

アビガンがコロナウイルスに効くという証拠が未だ出ていないということであって,アビガンはコロナウイルスに効かない,という証明が為されたわけではない.

前記文春オンラインは,次に
アビガンは効かない|k_owaki
https://note.com/k_owaki/n/n41bb28b3c6b7
を引用しています.

そこでは
1. アビガンがCOVID-19に効くという証拠はない
2. アビガンがCOVID-19に効きそうだと考える理由は薄弱
3. 仮にアビガンがCOVID-19に効いたとしても、状況を変えられそうにない
が示されています.
まず,1.はその通りですが,効くという証拠がないということを,効かないという印象に変えています.
次に,長くなりますが,2.に関してです.引用ですが
ではアビガンは「効きそう」なのでしょうか。
ぼくにはそうは思えません。
まず、アビガンはインフルエンザの薬です。
インフルエンザの薬は麻疹には効きません。ポリオにも効きません。エイズにも効きません(アマンタジンはパーキンソン病に効くじゃないか、というのは関係ない話なので割愛)。
とあります.これは間違った説明だと思われます.

アビガンは,これまでの抗インフルエンザ薬とは作用機序が異るが,RNA-dependent RNA polymerase (RdRP)の基質としてRNA複製を阻害し,RNAウイルスの増殖を抑制します.これはレムでシビルと同じです.だから効く可能性が予測されるのです.RNA依存性RNAポリメラーゼ (RdRp) はRNAのゲノムを保有し、かつ増殖にDNAを利用しないウイルスにおいて必須ですから,RdRp阻害は複数のウイルス疾患に効果を示します日経メディカル そもそもウイルスってどんなものでしたっけ? 京都大学ウイルス・再生医科学研究所RNAウイルス分野教授の朝長啓造氏に聞く
2本鎖RNAウイルス
◎プラス鎖のRNAがmRNAとなりウイルス蛋白質を作る。自らが持つRNA依存性RNAポリメラーゼを用いて粒子内で複製を行う。
◆ロタウイルス

1本鎖RNAウイルス[プラス鎖]
◎ゲノム本体そのものがmRNAとして働き、ウイルス蛋白質を作り出す。細胞質内で自らが持つRNA依存性RNAポリメラーゼで複製する。
◆コロナウイルス、エンテロウイルス、風疹ウイルス、日本脳炎ウイルス、デング熱ウイルス、C型肝炎ウイルス、ノロウイルス

1本鎖RNAウイルス[マイナス鎖]
◎まず本体であるゲノムRNAを鋳型にmRNAを作り、このmRNAからウイルス蛋白質を作る。多くの場合、細胞質で複製を行う。
◆麻疹ウイルス、センダイウイルス、ムンプスウイルス、RSウイルス、狂犬病ウイルス、エボラウイルス、インフルエンザウイルス

などの複数のウイルスに効くはずである.
エイズは,1本鎖RNAウイルス[逆転写]であるから,これには効かない.
よって,アビガンがCOVID-19に効きそうだと考える理由は強力です.

最後に3. 仮にアビガンがCOVID-19に効いたとしても、状況を変えられそうにない,
は,どうでしょうか.この点に関しては,
しかし、「治療薬ができたらCOVID-19は一発解決」なんていう甘い話はありません。
インフルエンザには治療薬もワクチンもありますけど、日本だけで年間1000万人感染して1万人死んでますね。
結核、梅毒、破傷風、百日咳、なくなってませんね。
麻疹、風疹、おたふくかぜ、水ぼうそう、なくなりませんね。
と記載がありますが,その他には,この命題についての説得力のある話はないようです.

新型コロナウイルスがやっかいなのは,感染力が強く,そして,ある一定割合が死亡するという事です.特に回復まで時間がかかり,酸素投与,人工呼吸器装着,場合によっては人工心肺の使用が必要になります.患者数が多くなりすぎると,医療設備の整った施設に入れずに,死亡率が急上昇します(医療崩壊).治療施設側もインフルエンザがもとで発症した肺炎患者を診るのとは比較にならない医療資源の投入が必要になります.インフル肺炎では,二次性の細菌性肺炎が生じた頃には,医療従事者にインフルエンザを伝染すことが少ないし,仮に医療従事者に感染しても,医療従事者が死亡する可能性はかなり低いので,ほとんど医療従事者が恐れる必要がありません.

日本だけで年間1000万人感染して1万人死んでます”とありますが,大した予防をしなくても,1000万人に対して1万人(死亡率0.1%)しか死なない通常のインフルエンザと比べて,感染したら酸素投与以上の治療を行わないと,10%以上が死亡する可能性のある新型コロナ肺炎は,社会に与えるインパクトが大きく違います.

アビガンでも,カレトラでも,フサンでも,イベルメクチンでも,シクレソニドでも,重症化する前に投与できて,軽症で早期に治るならば,医療従事者や医療施設に対する負荷は大きく軽減されます.
結核、梅毒、破傷風、百日咳、なくなってませんね。
麻疹、風疹、おたふくかぜ、水ぼうそう、なくなりませんね。”とありますが,疾病としての性質が全く違うことを無視していますね.世の中から根絶できない感染症は,治療薬があってもなくても何も変わらない,とは言えないでしょう.治療薬がある事は重要な事です.

早期に診断されて,治療薬を早々に投与すれば,重症化しません.死亡率も下がります.そうなれば,社会活動が再開できます.
”仮にアビガンがCOVID-19に効いたとしても、状況を変えられそうにない”ということにはならないと思います.

次に文春オンラインは,アビガンを妄信する人が知らない不都合な真実(フロントラインプレス) - 東洋経済オンライン
を引用しています.
ここに登場するのは,隈本邦彦・江戸川大学教授です.彼は何が専門の教授でしょうか
メディアコミュニケーション学部 マス・コミュニケーション学科 で,薬害を監視する民間団体「薬害オンブズパースン会議」のメンバーである.上智大学 理工学部 化学科 卒業であるが,仕事は文系畑で,ポジションとして「薬害オンブズパースン会議」を背負った人物である.
ファビピラビル(アビガン)が薬となった条件として述べられている次のことは,事実である.
「アビガンは、本来の適応症である季節性インフルエンザに対する確かな有効性を証明できませんでした。そのうえ、副作用として催奇形性(胎児に奇形を及ぼす危険性)があったため、本来なら承認される条件を満たしていない薬だった。それなのに、『既存の薬とは違うメカニズムでウイルス増殖を抑えるので、ほかのすべての抗ウイルス薬が効かないような新型インフルエンザがはやったときに試してみる価値がある』という、極めて特殊な条件で承認されたのです。

彼は,催奇形性の観点からもアビガンの承認に危惧を抱いているが,述べていることは”アビガンの新型コロナウイルス感染症に対する有効性は明らかでない”ということで,アビガンはコロナウイルスに効かない,とは言っていない.

前記文春オンラインでのこの引用文献の後は,
落としどころを早期に決めるべきなのに
アビガン承認・推進のためチームを組んだ今井補佐官
追及されるととっさに小さな嘘をつく安倍首相は
本当に問われるべき経済問題はそっちのけ

と政治的な話で終了しています.
”明白になった「アビガンはコロナに効かない」という事実”の根拠は示されていません.

この文春オンラインの記事は山本 一郎氏のもので,氏のブログは時々拝見しているのだが,
2020/5/20に”アビガン問題、藤田医科大が意味不明の釈明文を出す
と否定的な見解を出してますから,彼はアビガンには批判的なんだろうな,と感じましたが,可能性のある薬の将来性を摘むような事にならないことを祈っている.

というのは,今後,コロナウイルス肺炎に対して,アビガン使用とアビガン不使用(他の治療薬を使わない)の2アームで二重盲検を行うことは倫理的に難しくなってしまうからである.
どこかに”普通のインフルエンザにさえ有効性を示せなかった薬が,他の重症ウイルス肺炎に効くわけがない”と書いてあったが,このような判断もまた誤りである.世の中には薬の効果に拘わらず,世に出て活躍できなくなる薬がある.アビガンはRNA依存性RNAポリメラーゼ に依存して増殖するRNAウイルスには広く効果を持つ薬であり,製造コストが安い.特許が切れて,メーカーは儲からない薬になってしまったので,メーカーに放棄されやすい薬である.社会がよってたかって貶せば,葬られてしまう薬である.レムデシビルのように特許で守られていない分,経済的な意味でもレムデシビル上げ,アビガン下げ,が起きやすく,治験なんか行っても,富士フイルムは儲からないのである.
安くて,大量生産できて,パンデミックに使用できる抗ウイルス薬としてアビガンは残しておきたい薬であると思っている.

日本ではサリドマイドの薬害がありましたが,サリドマイドは,多発性骨髄腫に対する治療薬として有効であることが米国より報告され、日本でも2008年に多発性骨髄腫に対する治療薬(サレドカプセル)として再承認されています.

イレッサ(ゲフィチニブ)も急性肺障害・間質性肺炎で薬害があったが,幸い分子標的薬として,重要な治療手段の流れを作りだした薬になっている.

抗ウイルス薬として,チミジンのアナログであるソリブジン(ユースビル)が発売されたが,5-FUとの併用で死亡例が出て,発売中止になっている.単純ヘルペスウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、EBウイルスに有効であり,残念な結果になった良薬であったと考える.

アビガンも催奇形性があるとされているので,注意深く患者選択を行ってもらい,認可される時を待ちたいと思う.
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